切ない・・・
この物語の舞台は、生殖医療の発展した近未来。 そこに、血縁関係、ABITAS-C1という病気、出生の秘密、と様々な要素が盛り込まれている。一読しただけで、物語の内容を把握することは難しいが、何度か読んで、この物語の切なさに本気で涙した。親の愛情を知らない主人公の温(ハル)。本当の愛情を求めて、温はひと夏のサマーキャンプへ・・・。 「誰かに必要とされたい」という思いは、きっと誰もが持っている。それを、温は無意識に求めていたのだと思う。そして、誰かに必要とされている実感が人の生きる理由なのかもしれない。 そんな温や辰の切ない思いは、私の心に痛いほど響いた。
心に残る作品
少々複雑で、私は一読しただけでは理解できなかったけど、とても切ない物語だと思った。 舞台は近未来。登場人物たちはやけに狭苦しい血縁関係で結ばれている。そこからこぼれだす込み入った奇妙な物語。 文体も硬いものを採用しているし、行為と愛情を完全に分けて考える温(ハル)たちはまるで感情がないようにもみえる。けれど彼らの抱える苦しみや悲しみが次第に伝わり、同調し、擁護すらしたくなる。時折温を打ちのめすように乱雑な言葉を吐く暴力的なヒワ子にも、やさしさが透けて見える。 根源的な喪失を抱える辰(トキ)、与えられるべきものを与えられなかった温。 ラストシーンが胸に響く。
はまったら戻れない・・・
ここは生殖医療に翻弄される人々が織り成す不思議な世界。これにはまったら、あなたはもう戻れない。この迷宮で、人間はどこまで自らを操作しようとするのだろうか・・・ ABITAS-C1。聞き慣れないこの言葉にまず引き込まれる。それだけでもストーリーの奇妙な魅力を語るに十分だ。温(ハル)を取り巻く人々の”生殖的”に複雑な関係がまた、読者の背筋をぞっとさせる。感情がないかのような、虚無主義的な彼ら。あまりにも冷酷冷淡な遺伝子操作の渦。人間も行き着くところまで行くとこうなるのかと実感させられるような、退廃した世の中が広がる。怖いと思いつつも、ページをめくる手を止められない。著者独特のねっとりした世界感を味わわずにいられない展開だ。 恐ろしくもひかれる世界がある。そ!れは、我々が実は平穏な世の中に幸せに生きている証拠だろう。読書に非日常を徹底的に求めるなら、この本は望みをかなえてくれるはずだ。 何とも形容し難いストーリー。はまったらなかなか戻れなくなることを承知でこの本のページを開いてみれば、読者の中に、新たな世界観が生まれるかもしれない。
文藝春秋
天然理科少年 (文春文庫) 螺子式少年(レプリカ・キット) (河出文庫―文芸コレクション) 魚たちの離宮 (河出文庫) 夏至南風(カーチィベイ) (河出文庫―文芸コレクション) ぼくはこうして大人になる (新潮文庫)
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